【プリキュアベストセレクション①】思い出の中のハレの日【スマイルプリキュア!19話感想】
スマイルプリキュア19話。明るく楽しい話が多いスマイルプリキュアの中でも、少し雰囲気が違う回です。
雰囲気が違うと言っても、鬼畜道化師が持ち込んでくるシリアスというわけではなく。
ノスタルジックで、それでいてどこか優しさを感じるような……そんなお話です。
おしながき
はじまりは雨
時期は6月。外は雨が降っています。
宿題のテーマは”名前の由来”。先生曰く「思春期を迎えた今だからこそ」だそうです。この年になると、自分の生まれたときのことを聞いたりするのが恥ずかしかったりしますよね。そういう時期だからこそ、自分の親や家族と向き合って話をしてみるのが大切なんじゃないでしょうか。いいテーマだと思います。
いつも通り大騒ぎするあかねやウルトラハッピーなみゆきを横目に、ひとりためいきをつく黄瀬やよい。彼女が今回の主役です。
やよいはお母さんと2人暮らし。
名前の由来を聞きたくても、つけてくれたお父さんはもういません。しかし、お父さんはその理由をやよいに話していたようなのです。つまり、名前の由来はやよいの記憶の中だけにあるんですね。でも、彼女はまだそれを思い出せません。
思いだせるのは手の感触だけ。「それで十分よ。」と優しく諭してくれるお母さんはとても優しいですね。
辞書で名前を調べるやよい。やよい=弥生の意味は旧暦で3月のこと。じゃあ3月にどんな意味があったんだろう…と、謎は深まるばかりですね。
そんなときでした。やよいの脳裏にフラッシュバックしたある日の記憶。
建物、そして並木道。 なにか関係がありそうだけど…やっぱり、思い出せないのでした。
ここから、やよいの記憶を紐解く旅が始まります。
曇る記憶
発表の日。今日も雨が降っています。
お父さんとの記憶を思い出せなかったやよいは、自分なりに辞書で調べた言葉の意味を話しました。
そして帰り道での一幕。
やよいは、お父さんに自分の名前の由来を聞いていたけど思い出せないこと、小さい頃には覚えていたお父さんとの思い出が薄れていることをみんなに話します。
そして、「パパは私のこと、どう思ってたんだろう」と時々思ってしまうことも。みんなのお父さんとの楽しそうなエピソードを聞いた今、より強くそう感じるのかもしれませんね。
そんな時に、「そんなの決まってるよ。パパはやよいちゃんのことを愛してた。絶対に誰よりも。」と、強く言ってくれるみゆきの存在は本当に大きいですよね。 他のみんなにもアドバイスしてもらい、もう一度お母さんに話を聞いてみることにしました。
このあと4人はやよいの後をつけて、彼女を見守ります。スマプリはこのようにみんなで助け合っている描写が多くて、テーマが一貫していると思います。もちろんキャンディのことも忘れてないクルよ。
嵐の到来
やよいはお母さんのもとへ。
やよいが感じていたのは、自分の中のお父さんとの記憶が失われていくことへの寂しさ。それを聞いたやよいのお母さんはカバンの中からあるものを取り出します。
それはかつてのお父さんの宝物。そして、今はお母さんの宝物でもあるもの。仕事カバンにいつも入れていたであろうことからも、それが伝わってきますよね。
宝物はやよいが父の日にあげたプレゼントでした。さらにお母さんから、お父さんのやよいへの感謝と、2人の間で交わされた秘密について教えてもらいます。そしてやよいはファッションショーを見ながら、自分にもお父さんと歩いた記憶があったことを思い出すのです。
19話は、やよいがお母さんや友達と話していく過程で少しづつ忘れていたことを取り戻すという構成になっています。記憶を辿り、思い出し、また知りたいことができて… そして残された最後の謎。2人の秘密。
お母さんの話で、やよいはお父さんからの愛をちゃんと感じたんじゃないかなと思います。
でも、だからこそ…… あの日のことを思い出して、自分で証明したい。愛されていた確証を得たいんじゃないかなと思いました。なにより、それを思い出すことは自分からお父さんへの愛を示すことでもあるでしょうから。
やよいが何かを思い出しかけたそんな時、ウルフルンが現れます。あの日のことを思い出し、お父さんの愛を確かめる。そのために…
目の前に現れた愛の否定者を、倒さなくてはいけません。
ピースサンダー
そして戦いの中で、やよいはすべてを思い出します。それは、丘の上の教会でお父さんとした結婚式。
そこでやよいは確かに名前の由来を聞いていたのです。
やよいの名前。それはお母さんの「ちはる(千春)」という名前から来ていました。春の優しさを持つお母さんのようになってほしい。それが「やよい」の由来でした。
お父さんが考えた、お母さんの優しさを受けた名前。家族3人を繋ぐ言葉が、やよいの名前だったんですね。
お父さんから貰ったたくさんの優しさ。彼女はそれを伝えていくために戦うのです。
愛のない暴力なんて、愛の力に勝てるはずがない。
「あなたに愛がないのなら、パパから貰った愛を受け取って!」
渾身のピースサンダー。今日は痛いのもガマンです。
ハレの日
戦いの後、雨は止み、晴れ間が広がり始めました。やよいの心も、すっきりと晴れ渡っていることでしょう。
「ケの日・ハレの日」という言葉があります。ケの日は日常のこと。ハレの日は非日常のことで、祭りや行事を行う日です。
結婚式もハレの日です。
やよいのハレの日を、お父さんはもう見ることが出来ません。それはとても悲しいことです。でも、お父さんが残した愛は、やよいを優しく育てました。そしてやよいもまた、愛を人に伝えていくのです。
いつかくるハレの日に、やよいは記憶の中のお父さんを思い出しながら、バージンロードを歩くのではないでしょうか。
おわりに
スマイルプリキュアは、東日本大震災の翌年に作られた作品です。作品テーマの裏には、震災で傷ついたところから立ち上がろうという想いがあるでしょう。
そんな作品で、「父を亡くした少女の、思い出のお話」を描いたことはとても大きな意味があったのだと思います。
震災から9年。5歳だった子は14歳になっているでしょう。奇しくもやよいが父を亡くしてから過ごした年月と同じです。
このお話を当時見たことがあった人。なかった人。震災で被害を受けた人、受けなかった人。様々な人に、改めてこのお話を見てもらいたいなと思いました。